学而不思則罔、思而不学則殆。

高校国語科教員が何か書きます。

幼稚園の記憶

 幼稚園の頃、工作の時間があった。工作と言っても紙に書かれた設計図をハサミで切り出し、切り出したパーツをノリで貼り付けて組み合わせていく、単純なものだ。

 みんなが工作に取り組むにあたり、先生は、まず切る工程を終えてから、貼る工程に移った方が良いこと、切り出したパーツは、無くさないように別の箱に入れておくと良いとことを教えてくれた。僕は、その教えを忠実に守り(その頃の僕は本当に素直に先生の言いつけを守る人間だったのだ)、まずは紙に書かれた線に沿ってパーツを切り出して、それを無くさないように机の上の箱の中に入れていった。

 全てのパーツを切り出し終わったところで、いざ組み立て開始。順調に組み立てていく。僕は工作が得意だった。

 しかし、途中で2つあるはずのパーツの1つが無いことに気がつく。僕は焦った。

何かの間違いではないかと、箱の中を探した。他のパーツに紛れてやしないかと、1つ1つ取り出しながら確かめた。しかし、何度見ても無い。

 おどおどしながら先生に報告しにいく(その時の先生は女性の先生で、とても優しくて大好きだった。その先生は怒る時によくほっぺを膨らました。非常に分かりやすい「私は今怒っています」のサインだった)。すると「探しなさい。」の一言(だったと記憶している)。

 仕方がないので探す。

 正面に座っている席の子(工作の時間は小学校の給食のように、お互いが向かい合って机をくっつける形で座っていた)にも「ねぇ、このパーツ知らない?」と尋ねたが、彼は首を振った。やはり無い。

 もう一度報告しにいった。先生はその日、あまり優しくなかった。

「先生、やっぱりありません。」

「だから箱を分けなさいと言ったでしょう!見つかるまで探していなさい!」

断言しておくが、僕は箱をちゃんと分けていた。もう一度言うが、幼稚園の時の僕は、先生の教えを忠実に守るタイプの人間だったのだ。一生懸命探してもなかったのに、なぜこんなにも怒られるのか。悲しみと混乱、そして先生に怒られた恥ずかしさの中、僕は泣きながら教室中を探し回った。絶対にないであろう教室の隅や、ロッカーの中も探し回った。

 当然、あるわけがない。

 何分か経った時、先生も気の毒に思ったのだろう。僕の席の近くの子に「内村君のこのパーツ知らない?」と声をかけてくれた。

 すると、前の席の男の子(僕が最初の方に直接尋ねた子)の箱の中から、僕のパーツが出てきたではないか。

 先生はその子をめちゃめちゃ叱っていた。そらそうだ。罪もない僕が大粒の涙を流し、教室の地べたを這いずり回ったのだから。

 名前を忘れてしまった君、なぜ素直に持っていると言ってくれなかったのか。

 そして先生、なぜもっとはやく近くの席の子に訪ねてくれなかったのか。

 不思議と今でも記憶に残っている、幼稚園での一幕。

 

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