僕の親戚に干物屋さんを営んでいる方がいたこともあって、僕は幼少期から干物をいただくことが多かった。
中でもアジの干物を専ら食した。
小さい子供にとって、アジの干物は結構難易度が高い。
骨に気をつけなければならないし、身はボロボロと崩れるし、背骨を剥がすために手は汚れるし。
当然親に食べさせてもらうわけだか、子供というものは自分でやらないと気が済まない。
何度も挑戦しては失敗した。
とくに背骨を上手に剥がすのには難儀した。
どうしても、背骨にくっついている皮膜を一緒に剥がせなかった。
だが諦めなかった。
ついに自分一人で背骨をペリペリと剥がし、くっついてきた皮膜のようなものを食べた時は格別だった。
「そこが一番美味しいんだよ〜」と父はよく言っていた。
自分もやっとそれにありつけたのだ!
ところで、「干物はね、猫のように食べるんだよ」と父から教えられた。
「猫のように食べる」とは大体どういうことかというと、つまりは骨と皮を残して身だけ食べるということだ。
それを聞いた小学生の私は、いかに骨と皮だけを残すかに心血を注いだ。
干物が出るたびに、いかに美しく食べるかを追求していった。
しかし、いつまでたっても「今日の干物の食べ方は完璧だ!」といえるような日は来なかった。
「今日はなかなか上出来だ」と束の間の達成感を覚えても、皿に残った骨と皮を母が捨てるのを見るたびに「これは違う…まだだ…まだ完璧じゃない」と心の中の自分が囁くのだった。
僕は考えた。いろいろ考えた。うんと考えた。
それは天啓だった。
そしてあまりに単純だった。
しかし、僕の周りでそれを行なっている者を見たことはなかった。
もう気がついた方もいるだろう。
そう、それは…。
骨 も 皮 も ま る ご と 食 べ る
以上です。終わります。