学而不思則罔、思而不学則殆。

高校国語科教員が何か書きます。

『民主主義とは何か』メモ

今のところの読書メモ。

やはり知識のない分野はメモが膨大でまとまりがなくなってしまう。

 

  •  はじめに
    • Q.民主主義は多数決であるが、少数派の意見はどうするのか?
      • フランスの思想家アレクシ・ド・トクヴィルなどが「多数の暴政」に警鐘を鳴らしたように、数の多い側が、少ない側の自由や権利を奪い、抑圧した事例は過去にいくらでもある。
      • それに歯止めをかけてこその民主主義
    • Q.民主主義とは選挙を通じて国民の代表者を選ぶことであるが、選挙だけが民主主義ではないのではないか?
      • 現代政界において、民主主義国家とそうでない国家を区別する最大の富順は、公正な選挙の有無。
      • 選挙の時以外、国民にとって政治が遠いものであるならば、それが本当に民主主義なのか疑問が残る。選挙以外の日常的な市民の活動においてこそ、民主主義の真価が問われるはず。
    • Q.民主主義とは国の制度か、それとも理念か?
      • 民主主義(デモクラシー)のもともとの意味は「人々の力、支配」
      • 古代ギリシア当時、政治体制には、君主制(一人が支配する)、貴族政(少数が支配する)、民主政(多数が支配する)があった。
      • ジェンダーや人種、宗教などによる差別や不平等の問題を一つひとつ乗り越えていくことが民主主義である。
    • 民主主義が意味するのもは自明なようで難しい。
      • 「民主主義は多数決の原理だが、少数者を保護することでもある。」
      • 民主義とは選挙のことだが、選挙だけではない。」
      • 民主主義とは具体的な制度だが、終わることのない理念でもある。」
    • 一人ひとりの読者がそれぞれに「民主主義を選び直す(変化し、相互に矛盾する多様な民主主義の意味を、現代において生きる私たちにもっともふさわしい意味へと再解釈していく)ことが本書のゴール。
    • 全体を貫くキーワード「参加と責任のシステム」
      • 人々が自分たちの社会の問題解決に参加すること、それを通じて、政治権力の責任を厳しく問い直すことを、民主主義にとって不可欠の要素と考える
  • 序 民主主義の危機
    • 今日における民主主義の危機 四つのレベル
      • ポピュリズムの台頭
        • ポピュリズム」とは?
          • 有権者を「エリート」と「大衆」に分けた上で、2つを対立する集団と位置づけ、「大衆:の権利こそ尊重されるべきだと主張する政治思想。
        • ポピュリズム vs 民主主義 ←そう単純でもない?
          • ポピュリズムは、不正確な、ときに虚偽の情報に踊らされ、扇動された大衆により非合理的な決定として理解される側面がある。さらに、自らの権力獲得のために、そのような大衆を操作し、あるいは迎合する政治的スタイルを指してポピュリズムと呼ぶこともある(大衆迎合主義)。
          • 一方で、ポピュリズムは既成政治や既成エリートに対する異議申し立ての側面もある。
        • 2016年6月ブレグジット
        • 2016年11月米国大統領選
        • 今まで、既成政党やエリートへの不信が募った時代に、不満を持った人々が既存の中間的な組織(政党や労働組合、利権集団、宗教組織など)を飛び越して、カリスマ的な指導者を直接支持し、それが大きな政治的な変動を引き起こすことは、現代グローバリズムを先導するとされる英米諸国でなかった。
        • 既存の枠組みにとどまる限り、自分たちの不満や不審は無視されるばかりだと考えた人々が、一人の指導者に思いを託すこと自体は否定されるべきではないが、そのことが、代表性の機能不全を前提とするものであり、より日常的なレベルで自分の考えを政治と結びつけていく回路の不在を意味するならば、民主主義にとってけっして幸福なことではない。ポピュリズムが続く状態はやはり問題。
      • 独裁的指導者の増加
        • 世界各地で独裁的手法の目立つ指導者が増えた。
        • 民主主義への懐疑
          • 中国:胡錦濤時代までは将来的には欧米的な民主化を目指していたが、習近平体制に移行して以来、欧米的な民主化を否定し、中国独自の路線を強調するように。
          • グローバル化とAIによる技術革新が進むなか、いち早く変化に対応し、迅速な決定を下すにあたっては、民主的国家よりも独裁的固化の方が好都合なのではないかという声を聞くことも珍しく無くなってきた。
          • かつての世界の国々は、独裁的な国家であっても、遅かれ早かれ、いつか民主化するという常識があった。しかし、現在ではこのような考え方が大きく揺さぶられている。
            • 経済成長にとって、自由民主主義は本当に不可欠なのか、むしろ独裁体制の方が望ましいのではないか。成長の果実の再配分による平等の実現など、民主主義にとっては経済成長が必要であるとしても、その逆は必ずしも当てはまらないのではないか。
          • このような考え方は「欧米的価値観の問い直し」にもつながる可能性がある。
            • これまで、近代化はすなわち欧米化であり、欧米的な民主主義の導入は世界のすべての国々の「普遍的」な目標であり、ゴールだった。
            • しかし、中国やインドなどのアジア諸国が飛躍的な経済成長を遂げ、経済的にも世界を主導する立場になった今日、欧米中心の世界圏は急速に過去のものとなっている。
      • 第四次産業革命
        • AIが人間を支配する時代が来るのではないか(ユヴァル・ノア・ハラリ『ホモ・デウス』)。
        • 多くの人間がいわば自らの思考を外部化し、アルゴリズムによって作り出されるヴァーチャルな環境の中で時速してしまうとすれば、そのような人々によって成り立つ民主主義に、いかなる意味があるのか問われることになる。
        • アルゴリズムのメカニズムにより、自分が気にいるような情報ばかりが各自に選択的に届くことになる。
        • 自分が知りたくもなければ、接したくもないような情報や意見は「ノイズ」に過ぎなくなる。
        • 自分が賛成しない他者の意見にも耳を傾ける寛容の原理は、自由民主主義の中核となる理念の一つだが、閉鎖的な情報空間において、特定の考え方ばかりが増幅される「エコー・チェンバー」に対して生き残れるのか。
      • コロナ危機
        • ロックダウンをはじめとする、個人の自由や権利を大きく制限される対策が、緊急事態を理由に実行される。
          • 民主的な合意形成には時間がかかる。場合によっては、既成の方やルール、制度を超えた対応も必要になる。
          • 民主主義はこのような緊急事態には的せるに対応できないのではないか、むしろ独裁的な指導者の方がよりスピーディに判断を下せるのではないか。
        • 感染拡大の防止を目指すなかで、個人の行動経路を把握するために技術が発展した。
          • ペストやインフルエンザなどのパンデミックが、行政権による国民の生命・生活の把握、さらには行政権自体の拡大をもたらした事例は多い。
            • いったん拡大した国家権力は、危機が去っても元に戻らないことがしばしば。
        • 個人と個人の物理的距離の拡大が要請された。
          • 民主主義にとってきわめて重要な要素である、人と人とが直接顔を合わせ、対話を行うことが阻害されることは、民主主義にとって望ましくない。
    • 民主主義に問われていること
      • 民主主義の力によって格差を縮小し、平等を確保することができるのか
      • 人と政治をつなぐ新たな回路を見出すことは可能か
      • 民主主義は真に人類が共有しうる共通の課題か
      • 人間の人間らしさ、個人尊厳や平等をいかに正当化できるか
      • パンデミックのような緊急事態に民主主義は対応できるのか